はじめに

前回「感覚の伝道路」「脳神経」について解説させていただきました。(感覚の伝道路・脳神経について

今までは脳の解剖等の説明が主でした。

今回からはそれらを踏まえた上で、脳卒中の症状について解説していきます。

今回の解説内容は以下になります。

今回の解説では、ところどころ脳卒中以外のことも記載しております。

脳卒中の症状と比較しながら見ていただけると幸いです。

主な症状

脳卒中の主な症状は以下の通りです。

※脳卒中の発症部位や損傷範囲の大きさで症状は異なります。必ずこれらの症状が出現するというわけではありません。

脳卒中の主な症状

・運動麻痺
・感覚障害
・構音障害
・摂食、嚥下障害
・意識障害
・高次脳機能障害(失行、失認、失語など)
・精神障害                                                                    など

これらの症状についてそれぞれ解説を行なっていきますが、全てを行うと長くなるので数回に分けさせていただきます。

今回は「運動麻痺」について解説していきます。

運動麻痺について

錐体路(中枢神経)と呼ばれる、運動神経の通り道が障害されることで運動麻痺が生じます。

※錐体路については以前解説しておりますので、ご参照ください。(脳の構造と機能・錐体路について

錐体路より先の、脊髄から先の神経(末梢神経)の障害でも運動麻痺が生じます。

「錐体路」が障害された場合と「末梢神経」が障害された場合を比較していただくために、「運動麻痺全般」について記載していきます。

なので、脳卒中とは関係のないものもいくつかありますのでご承知おきください。

単麻痺

四肢のうちいずれかの上肢・下肢に麻痺が生じる状態。
末梢神経または大脳皮質の運動野が障害(中枢神経の障害)されることで発症することが多いです。

片麻痺

片方の上肢・下肢に麻痺が生じる状態。
脳卒中(中枢神経の障害)に多く、一般的に脳卒中を発症した部位と反対側に麻痺が出現します。(例)右脳梗塞→左片麻痺

対麻痺

両方の下肢に麻痺が生じる状態。
胸髄・腰髄の障害(中枢神経の障害)により発症することが多いです。

交叉性麻痺

片方の上肢・下肢と反対側の顔面に麻痺が生じる状態。
脳幹の橋という部位が障害(中枢神経の障害)されることで発症することが多いです。

四肢麻痺

すべての上肢・下肢に麻痺が生じる状態
頸髄の障害・脳幹の障害(中枢神経の障害)により発症することが多いです。

運動麻痺でもさまざまな症状があることがお分かりいただけたと思います。

中枢神経と末梢神経のどちらが障害されたかで症状が異なります。(例)中枢神経→痙性麻痺  末梢神経→弛緩性麻痺  など

次は痙性麻痺、弛緩性麻痺について説明させていただきます。

痙性麻痺・弛緩性麻痺について

以下の表は二つの麻痺の違いについて記載しています。

痙性麻痺弛緩性麻痺
障害部位中枢神経(上位運動ニューロン)末梢神経(下位運動ニューロン)
筋緊張亢進(痙縮)低下
筋萎縮ほとんどなし著名
腱反射亢進減弱・消失
病的反射(バビンスキー反射など)ありなし

上位運動ニューロン:大脳皮質とそれから伸びている神経(錐体路)まで →中枢神経
下位運動ニューロン:脊髄前角細胞とそこから筋肉に伸びている神経まで →末梢神経

※上位運動ニューロン障害の急性期には弛緩性麻痺が生じることがあります。

運動麻痺の回復過程

末梢性麻痺と中枢性麻痺の回復過程の差

上の図は末梢性麻痺と中枢性麻痺の回復過程の違いについて書いてあります。

末梢性麻痺と中枢性麻痺の違いは、末梢性麻痺は量的変化・中枢性麻痺は質的変化で回復していく点です。これについて詳しく解説していきます。

そのためにはまず、MMT(Manual Muscle Test)について解説します。

MMTは徒手筋力検査といって、筋力を評価するバッテリーです。これでは、以下の表のように分類されます。

Normal5強い抵抗と重力に抗して完全に運動できるもの。
Good4弱い抵抗と重力に抗して完全に運動できるもの。
Fair3重力に抗してなら完全に運動できるもの。
Poor2重力を除けば完全に運動できるもの。
Trace1筋のわずかな収縮は見られるが関節は動かないもの。
Zero0きんんお収縮が全く認められないもの。

このように末梢性麻痺の場合は量的に筋力を評価することで可能です。

しかし、中枢性麻痺の場合は病的共同運動といった運動が生じてしまいます。

共同運動とは、一つの運動を他の運動と分離して行うことができず、他の運動も一緒に起きてしまう状態。そして、それはある一定のパターンに従って出現します。

屈筋共同運動伸筋共同運動
上肢
 肩甲帯挙上と後退前方突出
 肩関節屈曲・外転・外旋伸展・内転・内旋
 肘関節屈曲伸展
 前腕回外回内
 手関節掌屈背屈
 手指屈曲伸展
下肢
 股関節屈曲・外転・外旋伸展・内転・内旋
 膝関節屈曲伸展
 足関節背屈・内反底屈・内反
 足趾伸展屈曲

上記の表に従った一定のパターンで出現するため、MMTでの筋力が他の関節の影響を受けてしまいます。

 例)膝関節屈曲した状態での足関節背屈 MMT4 →膝関節伸展した状態での足関節背屈 MMT1

そのため、中枢性麻痺の場合はBRS(Brunnstrom Recovery Stage)のように質的に評価する必要があります。

StageⅠ弛緩状態で四肢の随意運動は全くない(弛緩性麻痺
   Ⅱ病的共同運動の要素のいくつかが連合運動として現れるか、わずかに随意運動の反応が現れる。痙性は少し出てくる
  Ⅲ痙性はさらに増大し、病的共同運動が随意的に行えるようになる
   Ⅳ痙性が減少し始め、病的共同運動から分離した運動がでてくる
  Ⅴ病的共同運動は失われ、より難しい運動ができるようになる
   Ⅵ個々の関節運動が可能となり、正常な機能が回復してくる

おわりに

今回は、脳卒中の症状と運動麻痺について解説しました。

運動麻痺は脳卒中だけの症状ではなく、末梢神経の障害でも出現します。そして、障害された部位によって症状が異なります。

また、脳卒中などの中枢性の運動麻痺と末梢性の運動麻痺では回復の過程も異なるため、筋力の評価方法も異なります。

次回は「感覚障害」について解説します。