前回高次脳機能障害の「失行・失認」について解説しました。
今回は高次脳機能障害の「記憶障害」について解説していきます。
記憶や記憶障害はいくつか分け方があるため、さまざまな用語が出てきます。
一つ一つ解説していきます。
今回は下記の流れで説明していきます。
記憶障害と記憶の種類
記憶障害の代表的なものとして「健忘症」があります。
健忘症は主に陳述記憶の障害となっており、前向性と逆行性とがあります。
・前向性健忘:発症、受傷以降の記憶障害のことをいいます。新しい情報を覚えることが困難となります。
・逆行性健忘:発症、受傷以前の記憶が喪失している状態のことをいいます。特にエピソードや体験の記憶が強く障害されます。
前向性の記憶として、大きく長期記憶・短期記憶に分けられます。
・意味記憶:言葉の意味など、学習して得た記憶(知識)。
例)「日本の首都は?」の質問に対して、「東京」と答えることができる。
・エピソード記憶:「いつ、どこで、何をした」という過去の体験や、出来事の記憶(思い出)。
例)小学生の頃の思い出を思い出すことができる。
・手続き記憶:動作や行為を繰り返し行なったことによって、「体が覚えた」記憶。
例)自転車の乗り方を体が覚えている。
・ワーキングメモリ(作業記憶):情報を一時的に記憶し、意識的に操作することができる記憶。
例)電話番号を聞いて、それを一時的に記憶し、そこに電話をかけることができる。
健忘症と認知症
記憶障害の、「健忘症」と「認知症」の違いについて解説します。
一般的に「認知症=記憶の障害」という認識を持っている方が多くいらっしゃると思います。
正しくは「認知症=認知機能の障害」となります。
では「認知機能」とは何でしょうか?
認知機能:「記憶」「理解」「判断」「計画」「計算」「言語」といった脳の知的機能。
つまり、認知症(認知機能の障害)では、記憶障害だけではなく、その他の認知機能の障害も出現します。(失語・失行・失認など)
「健忘症」は記憶障害のことであり、簡単にいえば物忘れであり、それが病的に出現している状態のことを言います。
健忘症と認知症の見分け方として、「忘れたことを自覚している方が健忘症」「忘れたこと自体を忘れてしまっている方が認知症(自覚がない)」と言われています。
脳血管性認知症について
脳血管性認知症は言葉の通り、脳卒中によって生じる認知症のことを言います。
認知症の種類のうち、アルツハイマー型認知症に次いで2番目に多い認知症となります。
症状は脳卒中が生じた部位によって変わりますが、認知症の症状のみではなく、脳卒中における運動麻痺等の症状を合併していることが多いです。
また、脳卒中を発症するたびに認知機能が段階的に低下していきます。
その他の特徴としては、まだら認知症・情動失禁があります。
・まだら認知症:脳卒中によっって障害された部位のみの機能が低下するため、できることとできないことがはっきりしている状態です。
・情動失禁:些細な刺激で泣いたり笑ったりする状態のことです。
※他の認知症でも症状としては出現しますが、アルツハイマー型認知症と比較し、感情が不安定とされています。
おわりに
今回「記憶障害」について解説しました。
記憶障害=認知症と認識されている方も多いと思いますが、認知症は認知機能の障害であり、記憶障害は認知機能の障害の一つでした。
また、記憶にもさまざまな種類があり、記憶の中でもどの機能が障害をされているかを評価する必要があります。
また、脳血管性認知症というものがあり、アルツハイマー型認知症の次に多い認知症でした。
脳血管性認知症では、脳卒中が発症することで段階的に症状が増悪していきます。そのため、脳卒中の再発に注意が必要であり、そのためには血圧管理や内服管理等を徹底していく必要があります。
次回は、「注意障害」について解説していきます。